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櫻井宏哉・退任記念展「The Stream」 

2024.02.26 Mon.-03.01 Fri. 12:00-18:00

​成安造形大学/ギャラリーアートサイト

​上映時間12分

私は成安造形大学で教職に就くことになり、横浜市から宇治市に転居しました。自宅と隣接する巨椋池(おぐらいけ)干拓田と呼ばれる広大な田園地帯と出会った事がきっかけで2011年から「The Stream(ストリーム)」シリーズの映像制作が始まりました。年に1作品制作し、現在まで13作品が制作されました。

 

私の目に映る田園とは、農業用の道水路などの造成、区画整理などを経て出来上がった風景です。直線状に伸びる農道、運河、細い水路が農地を囲み幾何学的な風景が作られます。一方、栽培される植物は整えられた区画の中で有機的な形状で成長します。さらにこの環境には、様々な動植物が生息するようになります。例えばポンプから地下水を供給される水路には藻が繁茂します。こうした人工的な環境に有機的な自然が組み込まれた風景が私に強い印象を与えました。

 

この風景は栽培の過程の中で変化します。人間が種を撒き、水を与え、植物を成長させ、収穫し、農地を焼きます。この移り変わりの過程で現れる水、風、炎をモチーフに風景の変容と流れを表現した作品が「The Stream」になります。

 

今回の退任記念展では2017年制作「The Stream VIII(8) 」(7分)と2022年制作「The Stream XII-II(12-2)」(5分)がループ再生されます。鑑賞時間は12分です。
 

上映作品解説

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「The Stream VIII」 2017年、7分

 

The Stream シリーズでは宇治市の巨椋池(おぐらいけ)地区にある農耕地の水路を撮影の対象にしています。しかし水路は農業だけでなく、排水機場と連携した水害防止の役割も果たしています。作品「The Stream VIII 」では、巨椋池排水機場を冒頭に紹介し、巨椋池地区の管理される水路の中の風景を取材しています。水流によって揺れ動く藻、電動ポンプによる注水で発生する気泡の渦。この作品の水流は手つかずの自然から生じるのではなく、人間の生活のため、機械によって人工的に生み出された水流なのです。

撮影場所:巨椋池(おぐらいけ)干拓田(宇治市)、巨椋池排水機場
協力:巨椋池土地改良区(宇治市)、巨椋池排水機場、Carolyn Miyake 、​佐原勤・サハラファーム宇治、成安造形大学

「The Stream VIII 」の主な受賞:2018年
最優秀実験映画賞/第4回ソラリス・フィルム・フェスティバル/フラン
・最優秀国際映画賞/第6回ムーンライズ・フィルム・フェスティバル/カナダ
・佳作賞/第30回ジローナ映画祭/スペイン

​・他、8ヶ所の映画祭で受賞。

 

「The Stream VII​I 」の主な上映:2018年
・第21回文化庁メディア芸術祭/東京

・第23回スプリット映画祭/クロアチア
・他、19ヶ
所の映画祭で上映。

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「The Stream XII-II」2022年、5分

 

「The Stream」シリーズの12作品目では、流れを液体に限定せず、風、炎、煙、雲などの気体に拡張しました。炎などによる気温の変化により、地上から水蒸気が発生し雲が生成されます。その後、雲は降雨をもたらし地上で川や海となります。一連の循環の流れから生み出される躍動感がテーマです。

この作品では葦の原を焼く様子が登場します。葦原を焼く際には温室効果ガスである二酸化炭素が発生しますが、春に葦が発芽し成長する過程で温室効果ガスは吸収されます。したがって温室効果ガスの排出は全体としてゼロになります

撮影場所:巨椋池(おぐらいけ)干拓田(宇治市)、宇治川
協力:巨椋池土地改良区(宇治市)、山城萱葺株式会社、日本茅葺き文化協会、伏見楽舎、佐原勤・
サハラファーム宇治、島先京一、Henry Dutton Foster Jr.、成安造形大学

 

「The Stream XII-II」の受賞:2023年
最優秀実験映画賞/第40回アーゾロ芸術映画祭/イタリア
最優秀実験映画賞/第6回ソラリス・フィルム・フェスティバル/フィンランド
・佳作賞/第3回リバルタ実験映画祭/イタリア

 

「The Stream XII-II」の主な上映:2023年
・第61回アナーバー映画祭/アメリカ
・第50回アセンズ国際映画祭/アメリカ
・第37回イメージ・フォーラム・フェスティバル/東京

・他、14カ所の映画祭で上映。

​撮影手法について

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撮影地は京都府宇治市にある巨椋池(おぐらいけ)干拓田と呼ばれる田園地帯です。

1933年までは巨椋池と呼ばれる京都府の最大の面積をもつ淡水湖がありました。

 

この干拓田の一部では地下水によって灌漑が行われており、私はこの透明度が高い地下水を利用した水路のみで水中撮影をしています。

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撮影のビデオカメラは「GoPro」を使用しています。加えてカメラに装着できる接写レンズと水路内の移動撮影の機材としてスライダーを使用しています。


水路の中の藻は水田に最初に水を入れる6月ごろに発生します。藻はコンクリート製水路の内側に糸を束ねたように密生します。またその範囲も約100メートルに及びます。水路の両縁にスライダーを固定し、スライダーから吊り下げたカメラで移動撮影します。地下水を汲み上げた水路の場合は透明度が高く、約30メートル前後の範囲を鮮明に撮影できます。


水路は幅50cm,深さ50cmのサイズです。Goproという小型カメラだからこそ狭い水中で自由に移動し撮影できます。

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音響については、環境音を加工して使用することで、実際には無い水流の効果音を創作しています。マイクは水中用のマイクを使用。水田内に水を引き込むパイプ内にマイクを入れ録音する事もあります。

 

貝殻を耳にあてると聞こえてくる潮騒のような共鳴音を聴いたことはあるでしょうか。水田のパイプ内も同様に同じ共鳴音が生じます。パイプの外の環境音が共鳴し特定の高さの音が重なりコーラスのような和音になる場合があります。


パイプ以外の方法としてガラス製のコップや瓶を撮影現場に配置し水田の環境音が共鳴する音響も録音します。私はこれらの音響を録音し、作品の効果音として使用しています。

特別オンライン上映

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この退任記念展で上映されない作品を3月15日(金)まで期間限定でオンライン上映します。

是非ご覧ください。※ 視聴期間は終了しました。

 

The Stream XI、2021、8分

 

今回のThe Streamシリーズの11作目では水流が生み出される理由を考察しました。
水路を流れる水流は農作物栽培に必要とされます。農作物は主に人間の食用として生産され、市場で売買され流通します。農作物は市場では得られた収益によって再び栽培されます。水流の流れを生み出す原因は経済と物品の流通であり、交通や情報ネットワークを介し社会の中で循環しています。第60回アナーバー映画祭(アメリカ)上映、他。

The Stream シリーズ関連サイト

1) ストリームシリーズ 櫻井宏哉(The Stream Series/Hiroya Sakurai)

The Streamシリーズの全ての解説とダイジェスト版を視聴できます。ただし言語は英語のみです。

 

https://sakurai543.wixsite.com/mysite

2) フェイスブック

The Streamシリーズが上映される内外の映画祭の紹介を投稿しています。

言語は英語のみです。

 

https://www.facebook.com/profile.php?id=100009720904181

3) インスタグラム

The Streamシリーズの撮影現場の写真を投稿しています。

 

@the_stream_landscapes

 

4) 成安造形大学紀要

The Streamシリーズの12作品の制作報告をWEB上で閲覧できます。本サイトの最後にリストを掲載しましたので参照ください。閲覧リストはこちらをクリックください。

​櫻井宏哉・略歴

アーゾロ芸術映画祭の受賞トロフィーと本人(2023年)

1958年 横浜市生まれ。京都府宇治市在住
成安造形大学教授
​、日本映像学会会員


武蔵野美術大学 芸能デザイン学科(現・空間演出デザイン学科)卒業
筑波大学大学院 総合造形コース修了


主な個展

「櫻井宏哉展」ビデオギャラリースキャン、東京、1985
「THE STREAM, Hiroya Sakurai」ラトローブ・リージョナル・ギャラリー、オーストラリア、2019

 

主な受賞

「アーゾロ芸術映画祭」イタリア、2023

「アナーバー映画祭」アメリカ、2018

​「東京ビデオフェスティバル」東京、2017​
 

主な上映

「シドニー・ビエンナーレ」オーストラリア、1982

「日本の戦後芸術」アメリカ、2017

「文化庁メディア芸術祭」東京、2018
 

作品収蔵:

ゲティ財団、アメリカ

カナダ国立美術館

詳細な履歴は成安造形大学の教員紹介ページへ

https://www.seian.ac.jp/dept/teacher/24646

今後の作品発表予定

1) FOTOZOFIO OFFLINE 2024 KYOTO 展、京都

The StreamXII-II の映像と写真を発表予定。京都四条東洞院地下道での展⽰の他「FOTOZOFIO センター」で展示​予定。

 

会期:2024年4月13日(土)-5月12日(日)

会場:FOTOZOFIO センター、京都市中京区

 

FOTOZOFIOセンター

https://fotozofio.jp/artist-works/

2) 第13回オダーク・フェスティバル、フランス

The Stream XII-II を発表予定。このフェスティバルは2011年から毎年、フランス、レンヌで開催されている実験映画上映を中心とした芸術祭です。上映の他、展覧会、パフォーマンス、公共空間でのインスタレーションの展示、シンポジユームなどが行われています。

 

会期:2024年 5月17日ー10日

会場:La Parcheminerie、レンヌ、フランス

 

オダーク・フェスティバルのフェイスブック

https://www.facebook.com/oeildoodaaq

3) 第1回リワイルディング・エクスぺリメンタル・メディア・フェスティバル

The Stream XII-II を発表予定。アメリカ、ウェスタンミシガン大学の気候変動研究会が主催する映画祭。
地球の環境問題をテーマに個人および地域社会の気候変動への影響や未来について
考える趣旨。


会期:2024年4月3日

会場:ウェスタンミシガン大学、アメリカ

成安造形大学紀要

01) The Stream I

第 3号 2012
映像作品「水流」の制作報告(69ページ)
The report about my video work “The Water Flow”

02) The Stream II

第 4号 2013
映像作品「水流II」の制作報告(1ページ)
The Making of the Video “The Stream II”

03) The Stream III

第 5号 2014
映像作品「水流III」の制作報告 (73ページ)
The Making of the Video “The Stream III”

04) The Stream Ⅳ, The Stream V

第 6 号 2015
映像作品「水流Ⅳ」の制作報告/映像作品「水流Ⅴ」の制作報告(103ページ)
The Making of the Video “The Stream Ⅳ”
The Making of the Video “The Stream Ⅴ”

05) The Stream VI

第 7 号 2016
映像作品「水流VI」の制作報告() (51ページ)
The Making of the Video “The Stream VI”

06) The Stream VII

第 8 号 2017
映像作品「水流 VII」の制作報告(7ページ)
The Making of the Video “The Stream VII”

07) The Stream VIII
第09 号  2018
映像作品「水流Ⅷ」の制作報告(129ページ)
The Making of the video, “The StreamⅧ”

08) The Stream IX
第10号  2019
映像作品「水流IX」の制作報告(95ページ)
The Making of the video, “The StreamⅧ”

09) The Stream X

第 11 号 2020
​映像作品「水流 X」の制作報告
The Making of the Video “The Stream X”

10) The Stream XI

第 12 号 2021
映像作品「水流 XI」の制作報告
The Making of the Video “The Stream XI”

11) The Stream XII

第 14 号  2023
映像作品「水流 XII」の制作報告 
The Making of the Video “The Stream XII”

12) The Stream XII-II

第 15 号  2024
映像作品「水流 XII
-II」の制作報告 
The Making of the Video “The Stream XII-II”

 

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